前回(リンクは最後にあります)は港元(ゴン・イュン)の歴史を少し説明しましたが、ここからは港元の発行についてのお話です。現在流通している硬貨は HK$0.10, HK$0.20, HK$0.50, HK$1, HK$2, HK$5とHK$10で、紙幣は HK$10, HK$20, HK$50, HK$100, HK$500とHK$1,000です。硬貨とHK$10紙幣は香港金融管理局(Hong Kong Monetary Authority)が発行、管理しているのに対し、それ以外の紙幣は三つの銀行が発行しています。それらの銀行を發鈔銀行(ファッ・チャウ・ンアン・ホーン)と言います。また、面白い事に、硬貨と紙幣にはそれぞれあだ名というか愛称があります。
なぜ發鈔銀行が三つもあるのですか?
一般的には、国や地域の中央銀行がお札を発行しますが、香港には中央銀行がないため、三つの銀行が発行しています。それらは渣打銀行(香港)(広東語:ジャー・ダー・ンアン・ホーン(ヒョーン・ゴン)、「スタンダードチャータード銀行」)、香港上海匯豐銀行(広東語:ヒョーン・ゴン・ショーン・ホイ・ウイ・フォン・ンアン・ホーン、英略:HSBC)と中國銀行(香港)(広東語:ジョン・グォッ・ンアン・ホーン(ヒョーン・ゴン)「中国銀行」)です。日本と香港を比べて見ればわかりやすいかもしれません。日本の場合は日本銀行がお札(日本銀行券)を発行し、国立印刷局で印刷されています。香港の場合は三つの銀行がお札の発行資格を有し、ルールや手続きに従い、お札(港幣)を発行し、香港印鈔有限公司(Hong Kong Note Printing Limited)で印刷します。そのルールは後ほどまた説明いたします。また、香港金融管理局は中央銀行に近い役割を果たす機関で、硬貨と一部の紙幣を発行しています。
しかし、前のブログで東藩滙理銀行(広東語:ドン・ファン・フゥイ・レイ・ンアン・ホーン、「オリエンタルバンク」)が紙幣を発行していたことがわかります。それはどのようにして今のようになったのでしょう。
香港最初の紙幣は1845年に香港で成立した東藩滙理銀行により発行されました。もっとも1935年に「港幣」が香港の法定貨幣に定められる以前は、様々な銀行がお札を発行していました。だが、これらのお札は商用のもので、公共料金の支払いには使用できないのです。その中の例外は東藩滙理銀行が発行している紙幣です。
1935年に香港の法定貨幣が「港圓」に定められたと同時に、政府は香港上海匯豐銀行(The Hongkong and Shanghai Banking Corporation Limited)、有利銀行(Mercantile Bank of India, London and China)、印度新金山中國渣打銀行(Chartered Bank of India, Australia and China)の三つの銀行に、HK$5以上の紙幣を発行する権利を与えたのです。一方、HK$1とそれ以下の紙幣は政府が発行します。
その後、買収や経営問題などにより、印度新金山中國渣打銀行が渣打銀行(香港)(Standard Chartered Bank (Hong Kong) Limited)になり、有利銀行は香港上海匯豐銀行に買収されました。そのため、1974年から1994年の間に紙幣を発行している銀行は二行のみでした。1993年には4年後の香港主権移譲に備え、紙幣のデザインが一新することになり、同時に政府がHK$10の硬貨を発行し出すため、HK$10紙幣の発行は次第に停止されました。1994年に中國銀行(香港)(Bank of China (Hong Kong) Limited)が加わり、新たに三つ目の紙幣発行銀行になり、現在に至ります。また、中國銀行(香港)は三つの中で唯一の中国資本銀行で、ほかの二行はイギリス資本です。
發鈔銀行が紙幣を発行する際は、ドルペッグ制に定められたレール、7.80±0.05港元=1米ドルに従い、発行する分に相当する米ドルを外匯基金(ンォイ・ウイ・ゲイ・ガム、香港の財政的準備金の一つにあたる為替基金)に預託する必要があります。このようなカレンシーボード制で、港元は米ドルに裏付けられ、事実上港元=米ドルです。そのため、發鈔銀行により発行された紙幣には「發鈔銀行憑票即付(Promises to pay the bearer on demand at its office here)」という文字が印刷され、このあと説明する香港金融管理局が発行する紙幣は「香港法定貨幣」の印字と異なります。
紙幣のデザイン
イギリス領時代の紙幣のデザインの多くはイギリスの国王(ジョージ5世かジョージ6世)または女王(エリザベス2世)が載っているものです。1997年の香港主権移譲に備え、1993年から紙幣のデザインは順次「香港らしい」デザインに変更されました。三つの銀行の紙幣はそれぞれのデザインがありますが、同じ金額の紙幣の色は統一しています。それが2018年にはじめてデザインを統一し、今までの「横書き」から「縦書き」になったのです。なお、新デザインへの評価は賛否両論です。
旧紙幣一例
2018年デザイン、香港上海匯豐銀行
2018年デザイン、渣打銀行(香港)
2018年デザイン、中國銀行(香港)
HK$10の硬貨と紙幣
香港の貨幣の中で、唯一硬貨と紙幣両方がある額はHK$10です。政府が1993年に従来のHK$10紙幣を硬貨に切り替えるとし、それに合わせて当時二行の發鈔銀行が紙幣の発行を中止し、今まで発行されたものが流通する形になったのです。しかし、市民からHK$10紙幣への需要が高く、同時に偽造されたHK$10硬貨も多くあるため、政府は2002年に香港金融管理局にHK$10紙幣の発行を依頼し、デザインも新しくなったのです。
香港金融管理局が発行するHK$10紙幣のデザイン
2002年版の材質は綿紙、2007年版の材質はプラスチック
紙幣のデザインを文章で説明しにくいので、ざっくりと表にまとめてみました。
香港上海匯豐銀行が発行した紙幣のデザイン
渣打銀行(香港)が発行した紙幣のデザイン
中國銀行(香港)が発行した紙幣のデザイン
カラフルで金額により大きさが異なる港紙は様々な愛称があります。HK$10は青蟹(チェーン・ハイ、「緑色のカニ」)、花蟹(ファー・ハイ、「色がごちゃごちゃのカニ」)、膠蟹(ガウ・ハイ、「プラスチックのカニ」)、HK$100は紅衫魚(ホン・サム・イュイ、「イトヨリダイ」)、HK$500は大牛(ダイ・ンアウ、「大きい牛」)とHK$1,000は金牛(ガム・ンアウ、「金色の牛」)です。これらの愛称は紙幣の色、サイズ、材質またはその上に印刷されている画像によりできていると考えられます。
硬幣のデザインと材質
最後は硬貨です。書き言葉は硬幣(ンァーン・バイ)で、通称は大餅(ダイ・ベィン)、銀仔(ンアン・ツァイ)、中でもHK$0.10, HK$0.20とHK$0.50は辰砂(サン・サー)、毫子(ホウ・ツィー)とも呼ばれます。
港幣銀仔
旧香港硬貨一例
銀仔の中でも、HK$10は日本の新五百円玉と同じくバイカラーで(色の配置は逆ですが)、 HK$1は日本の百円玉と五十円と同じ材質です。さらにHK$2の形は世界でも稀に見る形とされています。香港主権移譲の話がある前、硬貨の裏はエリザベス2世の頭像で、現在のものはすべてバウヒニアです。女王の頭像があるため、それらの銀仔は公仔頭(ゴォン・ジャイ・タウ、「ドールの頭」)や女王頭(ノィ・ウォン・タウ、「女王の頭」)などの愛称があります。また、『香港硬幣條例』により、HK$1以下の硬幣で支払える値段はHK$2までで、HK$1以上の硬幣で支払える値段はHK$100までとされています。
額が小さい毫子と偽札問題があった金牛などは使いにくい、判別しにくいため、一部の茶餐廳や個人経営店は「唔收毫子(毫子をお断り)」や「千元鈔票恕不找續(千元札をお断り)」などがあります。なお、近年は電子マネーの普及により、銀仔特に毫子の使い道が減り、香港金融管理局が大餅の回収活動も進めています。
港紙の数え方・呼び方も様々あります。例えばHK$2.5の正式な書き方は「2元5角」、広東語で話す際は兩個半(リョン・ゴー・ブン)です。
他にも単位ごとに呼び方が変わります:
単位 | 略称 |
〇 圓 | 〇 蚊(マン)HK$20くらいまでの少額は 〇 蚊雞(マン・ガイ) |
〇 十圓 | 〇 草(チョウ)または 〇 條(ティウ) |
〇 百圓 | 〇 舊(ガウ)または 〇 舊水(ガウ・スイ) |
〇 千圓 | 〇 K(ケイ)または 〇 撇(ピッイ) |
〇 萬圓 | 〇 皮(ペイ)または 〇 雞(ガイ)または 〇 餅(ベン)業界によっては 〇 個(ゴー)または 〇 粒(ラップ) |
〇 百萬圓 | 〇 球(カウ) |
みなさんは港紙を見たことや使ったことはありますか?お気に入りのデザインなどはありますか?今度、港紙を手にする際にちょっと見てみてはいかがでしょうか。前回のブログをまだ読んでいない方はぜひあわせて御一読ください!