前回は茶樓の歴史と営業時間について説明しましたが、今回はいよいよ茶樓に入り、注文などの作法についてご紹介したいと思います。作法というと、なんだか難しそうなイメージですが、実際はそれほど厳しいことはないです。ただし、これらができると、一気に「香港通」になれます!香港のことや文化がお好きな方はぜひやってみてくださいね!
着席までは戦争!
今は番号札で呼び出すシステムになりましたが、昔は早い者勝ちで席の奪い合いでした。(笑)また、茶樓でも馴染みの相席文化があります。店員さんはテーブルクロスをクルクルして「境界線」を作ります。今は昨今の事情でパーテーションになっているのでしょう。相席を避けたい人は、貴賓房(グヮイ・バーン・フォーン)のテーブルを指定することもできます。ただし、その分のテーブルチャージがホールのより高くなります。注意すべきは貴賓房は相席しないだけあって、個室ではないのです。
テーブルクロスで「境界線」
着席したらまずお茶を頼もう
茶樓、飲茶と呼ばれる分、やはりお茶は欠かせません。お茶を頼むというのは、茶葉の種類を選ぶとのことです。これを開茶(ホイ・チャ)または開位(ホイ・ワイ)と言います。多くの茶樓で提供している茶葉は普洱(ポウ・レイ、プーアル茶)、鐵観音(ティ・グゥン・ヤム)、壽眉(サウ・メイ)、香片(ヒョーン・ピン)、水仙(スイ・シーン)などがあります。中でも、普洱は油っぽさを軽減する効果があるため、わりと人気です。ほかはそれぞれ香りやお茶の色が違いますが、ここは好みで選べばいいです。最初に選んだ茶葉にお湯を入れるのは無限にできますが、茶葉をほかの種類に変更することは基本しないので、気をつけましょう。
お茶が来たら食器を洗おう
お茶を頼んだら、茶葉とお湯が入っている茶壺(チャー・ウー、大きめの急須)と何も入っていないボールと點心咭(ディム・サム・カッ)と點心紙(ディム・サム・ツィ)が来ます。これが来たら、まずは自分の食器を洗いましょう。多くの場合、着席したとき、人数分の食器がセットされます。茶杯(チャー・ブイ、取っ手のない湯吞み)、碗(ウゥン、茶碗)、碟仔(ディプ・ザイ、骨など置く小皿)、筷子(ファイ・ツィ、お箸)、匙羹(チー・ガーン、レンゲ)の五つが基本セットです。筷子座(ファイ・ツィ・ツォウ、箸置き)や牙籖(ンァー・チィム、つまようじ)なども置いてある茶樓もあります。最初の茶の湯を碗に注ぎ、筷子と匙羹を洗い、最後に茶杯を横にして碗に入っているお湯でぐるりと回します。食器を一通りゆすいだら汚れた茶の湯をボールに捨てます。
食器セット、箸置き代わりに使われているソース皿も
これを聞くと、茶樓で出されている食器は汚いの?と思う方もいるでしょう。むろん、自宅で洗った食器ほどきれいではないが、洗わずに使えない状態でもないです。それでも、外食時の食器は洗ったり拭いたりしてから使う香港人は多いです。
しかし、茶樓で最初の茶の湯で食器をゆすぐのは実は理にかなっているのです。なぜならば、茶葉が使われているからです。茶葉が開き、味が出るまでは少し時間がかかり、最初の茶の湯はほとんど味がしません。どうせ味もしないのならば、殺菌効果もあるお湯で食器を洗おうとのことです。実際に中国の茶道でも、最初の茶の湯で茶杯を温めてから捨てるという作法があるそうです。
これらの作業が終わったら、やっとのことですが、お茶が飲めます。點心を目当てで茶樓に行きますが、ここは焦らずまずお茶を楽しみましょう。茶壺のお茶が飲み終わったら、またお湯を入れましょう。昔は茶壺の蓋を半分開けることを印に、店員さんにお湯を入れてもらいますが、近年はお湯の入ったポットを卓上に備えてあることが増え、自分たちがお湯を茶壺に入れることになっています。
茶壺の蓋を半分開けるというこの印にも一説があります。昔、茶樓に行くことが身分の象徴と文人の嗜みであったとき、とあるお坊ちゃんが鳥かごと飼っている文鳥を持って茶樓に行きました。途中で、文鳥を鳥かごから出し、空の茶壺に入れておきました。その時代は店員さんがやかんを持ち、ホールを歩きまわり、茶壺にお湯を入れるのですが、文鳥が入っていることを知らずにお湯を注いでしまい、文鳥を殺してしまいました。それから、人々はお湯を注いでほしい時に印をつけることにしたのです。
お湯を入れてほしい印
お茶を注いでもらったらジェスチャーでお礼しましょう
日本には上下関係を重んじる文化がありますが、実は香港にもあります。特に茶樓ではこれはわかりやすいのです。飲み会で上司の開いたグラスに気づき、次の飲み物を伺うのと似て、目上の人の湯吞みにお茶を注ぐのも目下の方がやるのです。湯吞みのお茶が半分以下になったら、片手で茶壺を持ち、もう片手は軽く蓋を抑え、七分目ほど足します。これができると気配り上手と思われますよ!とはいえ、出来なくても責められることはありません。
ここにももう一つ作法があります。上下関係に関わらず、お茶を注いでもらったら、人差し指と中指を曲げて机に二回トントンしてお礼をします。これにも一説があります。とある皇帝が町の人々の生活を視察するため、臣下とお忍び旅行をしました。途中で茶樓に入り、皇帝が側近にお茶を注いだのです。臣下は跪礼(きれい、跪拝の意味)をしなければならないが、それですと相手が皇帝であることが周りの人にバレてしまいます。咄嗟に、臣下は指で跪礼をしました。これが人差し指と中指でトントンする由来とされます。
指で跪礼
點心を頼もう
ここまで来たら、ようやく點心を頼むステップに入ります!茶壺と一緒にくる點心咭(ディム・サム・カッ)と點心紙(ディム・サム・ツィ)はここで使います。點心咭は伝票代わりのもので、點心紙はオーダー用紙です。點心紙には點心の名前と価格帯が書いてあります。食べたいものの数を點心紙に記入し、店員さんに渡せば、あとは點心が来るのを待つだけです。
點心咭に記されているのは、表に卓番、人数と點心のカテゴリー、裏面にその他の注文です。なぜ人数が記されているかというと、茶位(チャー・ワイ)というテーブルチャージがあるからです。これをお茶の飲み放題料金として考えましょう。點心は物によって値段が変わります。一般的に値段昇順で、小點(シウ・ディム)、中點(ジョーン・ディム)、大點(ダイ・ディム)、特點(ダッ・ディム)、頂點(デェン・ディム)と腸粉(チョーン・ファン)に分けられます。回転ずしに似たシステムで、ネタによってお皿の色が異なるという風に考えましょう。注文漏れなどでの計算ミスを防ぐため、點心を運びに来る店員さんは対応の価格帯のところにハンコを押します。
ハンコを押された點心咭
今は人件費削減と安全問題などで、點心紙で注文するのが主流になっていますが、昔は車両販売のように、店員さんが點心の乗せた點心車をホール中歩き回るのです。貴賓房には少し長く留まることもあります。點心車の前には乗ってある點心と価格帯を示す札があり、テーブルの近くに来たら、點心車を押すおばさんに直接注文します。これもその場でハンコが押されます。食べたい點心が乗ってある點心車がなかなか横に来ない場合は、點心咭を持って、點心車のところに行って、注文した點心を自分でテーブルに持って帰るというセルフサービスも可能です。これも飲茶の醍醐味でした。
點心車、前には乗ってある點心と価格帯を示す札
最後はお会計
胃袋が満たされたら、ハンコがたくさんの點心咭をレジまで持って埋單(マイ・ダン、お会計)しましょう。セルフサービスの部分も多いが、ほとんどの茶樓は10%のサービス料がありますので、お気をつけましょう。
今でこそ點心咭をレジまで持って行きますが、昔は店員さんに「唔該埋單(ンー・ゴイ・マイ・ダン、お会計お願いします)」を言い、店員さんは計算後の伝票をホルダーにはさんで持ってきます。金額を確認後はお金をホルダーに置き、店員さんが確認したらレジに持っていきます。お釣りがある場合、店員さんはまたお釣りをはさんだホルダーを持ってきます。不効率ですが、これもサービスの一環でした。香港ではチップを払う習慣がないですが、景気の良い時の茶樓ではよく「唔洗找(ンー・サイ・ザウ、お釣りいらないです)」が聞こえます。また、お釣りをはさんだホルダーに小銭のお釣りをチップとして残す人もいました。今は不景気かつレジでお会計するため、このようなチップの渡し方は見なくなりました。
これで香港の茶樓や點心専門店に行くことができると思います!次回は點心の紹介になりますので、乞うご期待ください!