この季節では台風などはもう来なくなっていますが、これからは冷たい雨や雪で困ってしまいますね。天気はいつになっても世界中の人々にとっての大きな課題です。
香港は亜熱帯地域の中でも海沿い地域にあるので、昔からよく台風や暴雨に悩まされています。
1884年、イギリス植民地政府はが初めて香港でシグナルシステムを使い、台風の強度や方向を示すようになりました。各所に高い棒を設置し、それを使ってボールやライトを掲げて、市民に気象情報、特に台風情報を命に関わるほど大事にしている漁民たちに知らせていました。
ちなみに、これらの措置が、広東語では「掛幾號波」(直訳は「何番号のボールを掲げる」で、意訳は「台風シグナル何レベルになる」)と、「落波」(直訳は「ボールが下げた」で、意訳は「台風が去りシグナルが撤去された」)と言い、今でも使われる言葉の由来でもあります。
そして時が流れ、科学が大きく進歩したことにつれ、2001年に最後のシグナル発信所が閉鎖になり、代わりに台風シグナルはテレビやラジオ、そしてネットで発信することになりました。
シグナルの番号(レベル)は台風の距離と強度から判断され、弱い順で1、3、8、9、そして最強が10号になります。
シグナル1号は「戒備信號(Standby)」で軽い警戒レベルです。台風は離れているが、天候に影響する可能性があると示しているだけです。
シグナル3号は「強風信號(Strong Wind)」で、これになれば幼稚園などが休校になります。シグナル8号は「烈風或暴風(Gale or Storm)」で、さらに風が来る方向によって、「西北、西南、東北、東南」の4つがあります。これになれば全ての学校と交通機関を含むほとんどの会社が休みになり、社会全体がほぼ停止する状態になります。そのため、シグナル8号が出される数時間前に、「〇時よりシグナル8号を出します」という予告が先に出され、帰宅準備の時間を設けられます。シグナル9号は「烈風或暴風風力増強(Increasing Gale or Storm)」で、ここからは災害になりえる強度で、場合によっては避難が必要になってきます。シグナル10号は「颶風(Hurricane)」で、風力が危険レベルになります。戦後から今まで、シグナル10が出された回数はわずか16回、最近出されたのは2018年でした。
友人に香港人がいる方、シグナル8号が出されると、その香港人が「やったー!」とか「よっしゃー!」とかテンション高くなっているのを見かけると思います。それについて少し不思議だと思いませんか?
実は高層ビルがほとんどの香港では、強い風までもビルに阻まれ、街に暮らしている人たちにとって台風の影響は最低限のものが多く、そういう人たちはむしろ台風にもたらす休みを期待してしまいいます。それに、台風の休みは有給のように扱われるので、休めるし、給料も出される、会社員にとっては喜ばしいことではないでしょうか。
もちろん、郊外などではかなり困ってしまう人たちもいますが、香港では台風でつい喜んでしまう人のほうが多いと認識してもいいかと思います。
台風と同じように、雨量によって市民へ警告を出すシステムがあります。
暴雨になると、外で歩くこともかなり危険にさらされるので、台風と同じようにある程度ひどくなれば、休みになります。
暴雨警告は色でレベルを分けており、弱い順から黄雨、紅雨、黒雨となります。
黄雨は香港広域で一時間30mmを超える強い雨が計測したまたは予測されるレベルです。紅雨は50mm、黒雨は70mmです。紅色になれば、登校前の学生は家に留まるべき、すでに家を出た学生は家か学校か安全かつ近い方に移動すべきです。学校にいれば警告が黄雨になるか、すべての警告が解除されるまで学校で待機しなければなりません。黒雨になれば、通勤前なら会社に行く必要がなくなり、会社にいる場合は黒雨が解除されるまで待機となります。
さて、そんな台風や暴雨がもたらす休みに喜びを持つ香港人ですが、彼らには大きな「敵」もいます。それは、「李氏力牆」(訳:李氏の力により現れる壁)という、ネット民が作った概念です。
事の始まりは2006年に襲来した8号の強度に相当する暴風を、天文台(天気関連の政府機関、日本の気象庁に当たる)がずっと3号だけを維持した事です。疑問を持つ市民は政府内では天文台は経済発展局に所属していることを知り、そこから企業は休みにならないよう天文台に圧力をかけたのではないかと考え始めました。8号を出せば、社会活動が一時停止になってしまい、経済に悪影響を及ぼすからです。このような疑いはあっという間に広がり、香港で一番のお金持ちである李嘉誠氏が天文台を意のまま操っているのではないかという説が生まれました。李氏の会社グループは大きいため、その下で働いている人もたくさんいます。突然の有給は彼にとって都合のよくないことだからです。
その後にも、香港に直撃しそうな台風が香港に接近する直前にいきなり変な角度へ方向転換し、香港から離れてしまった事件が何度も起こりました。何か目に見えないフィールドが香港を「守っている」のではないかと、謎の力を使える李氏が黒幕という説がより深まりました。そこで謎のフィールドを、「李氏力牆」といつの間にかネット民がそう呼び始めました。
もちろんこの冗談めいた説の中には当時の市民が政府と企業と癒着している疑いへの不満も込めており、ややファンタジー要素も入っていますが、この概念はネットを使う香港人なら誰しも知っています。
「どうせ台風/暴雨は李氏力牆で、明日の通勤時間前には解除されるよ」と香港人が災害がもたらす休みを後ろ向きに期待しない一面もあったりします。
これら台風や暴雨を測定し市民の安全のため休みにする制度は、日本にはまだありません。いつか日本にもできたらいいなと、密かに在日香港人は願っているのではないでしょうか。笑