お待たせいたしました。前回の紹介から1か月経ってしまいました。今回は予告通り冰室と茶餐廳のドリンクについて説明いたします。フードまで紹介すると、長くなってしまうので、また次回に乞うご期待ください。
冰室と茶餐廳のドリンク
冰室と茶餐廳で売っているドリンクはさほどの差はありませんが、名前の通り、冰室は本来「氷(冷たいもの)を飲む場所」です。そのため冰室の最大の売りはアイスドリンクです。
最も有名なのは紅豆冰(ホン・ダウ・ベィン)です。紅豆はアズキのことです、甘く煮たあずき、つまりゼンザイの上に砕いた氷を乗せ、さらに淡奶(タム・ナイ)を入れます。豪華版だとさらにバニラアイスを乗せます。ちなみに、淡奶は無糖練乳(またはエバミルク)のことで、練乳よりさらさらとした質感で、香港ではミルクティーやコーヒーに入れることが多いです。また、蓮子冰(レィン・ツィー・ベィン)や菠蘿冰(ボー・ロー・ベィン)もあります。蓮子冰は柔らかく煮た蓮の実、砕いた氷、水と淡奶で出来ています。菠蘿冰はパインアップルジュース、小さく切ったパイン、シロップ、水と砕いた氷で出来ています。どれも肝心な「砕いた氷」が入っています。紅豆冰は今でも売られていますが、蓮子冰と菠蘿冰はあまり見かけない気がします(涙)そのほかに、缶詰めのフルーツ、水、氷とシロップでできた雑果冰(ザップ・グォー・ベィン)や缶詰めのフルーツ、スプライト、氷とザクロシロップでできた雑果賓治(ザップ・グォー・バーン・ジー)もあります。真冬の今で考えるととても飲みたくないですが、日差しが強い真夏の午後に、甘くて冷たいアイスドリンクは間違いなくオアシスです!
ほかに、奶茶(ナイ・チャー)ごとミルクティー、珈琲(ガー・フェー)ごとコーヒー、鴛鴦(ユン・イョン)ごとミルクティーとコーヒーのミックスドリンクや檸檬茶(レェン・モン・チャー)ごとレモンティーなどがあります。また、広東語ではホットを表わす「熱(イッ)」とアイスを表わす「凍(ドン)」という接頭語があります。例えば熱水(イッ・スイ)や凍水(ドン・スイ)でそれぞれホットウォーター、つまりお湯とアイスウォーターを指します。この二つの接頭語はこれから紹介するドリンクに適用しますので、頭の隅に置いておくと、冰室と茶餐廳でよりスムーズに注文できると思います。
香港の奶茶(ナイ・チャー)は濃い紅茶と淡奶で出来ています。紅茶に使用する茶葉は各店が異なり、企業秘密として独自のブレンド配合を持ちます。ベースは基本的にスリランカ産のセイロンティーです。濃いめに煮だした紅茶を木綿のろ過袋で数回濾(こ)して、淡奶が入っているティーカップに入れて出来上がります。ホットの場合はテーブルに置いてある砂糖をお客さんが自分の好みに調節して入れます。アイスの場合はシロップが入った状態で出てきます。昔は、ホットのミルクティーをあらかじめ多めに作り、ガラス瓶に入れて瓶ごと冷やしますが、今は氷を入れて代用しています。氷が溶けて、薄めてしまうこともあるため、コップにミルクティーだけ入れ、さらに大きい容器の外側に氷を入れる「冰鎮(ベィン・ザン)」という方法もあります。木綿のろ過袋で濾した紅茶は茶葉などの不純物を取り除くと同時に空気を入れ、お茶の香りと味を最大限に出すことができます。この技法はUNESCOの無形文化財にも登録されてるのです。また、その木綿のろ過袋は本来白だが、お茶に触れていくうちに徐々に茶色になり、絲襪(女性のストッキング)に見えるため、香港のミルクティーは「絲襪奶茶(シー・マッ・ナイ・チャー)」とも言います。
冰室と茶餐廳の珈琲(ガー・フェー)の最大の特徴はやはり淡奶を使うことです。奶茶と同様に、ホットの場合はテーブルに置いてある砂糖で自分好みの甘さに調節し、アイスの場合はシロップが入った状態で出てきます。日本でコーヒーを頼むと、ブラックが基本ですが、香港では「齋琲(ザイ・フェー)」で頼む必要があります。ここのカルチャーショックは要注意ですね!
次は上記の奶茶と珈琲のミックスドリンク―鴛鴦(ユン・イョン)です。なぜ鴛鴦という名前かといえば、鳥の鴛鴦(オシドリ)からきたのです。鳥の鴛鴦はオスとメスの見た目が大いに異なっていますが、常にペアで行動する習性があります。そこから、見た目が違う茶色の奶茶と黒の珈琲が一緒になっているドリンクを鴛鴦と呼ぶようになったのです。基本的な割合はミルクティーが7対コーヒーが3ですが、好みやお店によって変わることもあります。鴛鴦の発祥については、一説は昔、ふ頭などで力仕事をしている人々が休憩時間に水分やエナジーを補い、眠気覚ましを兼ねて、苦いコーヒーとミルクティーを混ぜて飲むことからとありますが、本当の起源ははっきりとされていません。
一つだけ言えるのは、ミルクティーもコーヒーもヨーロッパ(イギリス)からのものですが、入れ方や混ぜることによって、新しいものが香港で生まれたことです。新しいことを受け入れ、さらに変化させるのが、香港人の柔軟性と創造力が見えたところでしょう。また、奶茶、珈琲と鴛鴦のトリオは、すべて淡奶が入っていますが、「~走(ザウ)」というカスタマイズもできます。それぞれを「茶走(チャー・ザウ)」、「琲走(フェー・ザウ)」と「鴦走(イョン・ザウ)」と呼びます。この「走」は淡奶の代わりに練乳を入れることを意味しています。淡奶は無加糖のため、飲む時に砂糖を入れますが、練乳は本来甘いため、さらに砂糖を入れる必要がなくなります。なぜ砂糖を入れることを避けたいかといえば、砂糖が溶けきれず、下の方が甘くなってしまい、味が損なわれてしまうからです 。そのためドリンクより溶け込みやすい練乳で代用し、飲むときの質感と味を維持します。
他に、冰室と茶餐廳の檸檬茶(レェン・モン・チャー)も日本のものとイメージが違います。香港の檸檬茶には必ず3〜5ミリにスライスしたレモンが3、4枚ほど入っています。ホットはまた自分で卓上の砂糖を入れます。アイスはあらかじめシロップが入っていることが多く、シロップなしの「走甜(ザウ・ティム)」または甘さ控えめの「少甜(シウ・ティム)」という頼み方があります。スライスのレモンが入っているだけではレモンの味がしないので、自分でレモンを潰して味を出す(特にアイスの方)必要があります。アイスの檸檬茶を頼むと、ストローとパフェ用のような長いスプーンが付いてきます、ストローで底に沈んだレモンを押さえ、スプーンでレモンを潰し、自分の好みの酸っぱさを調整するのが通の飲み方です。ホットの方はレモンがずっと熱いお茶に浸かってると苦くなってしまうので、ある程度潰したらソーサーに出す人もいます。檸檬の話が終わりましたら、今度は茶の方の話に変わります。こちらは紅茶が使われますが、しっかり渋味と風味のあるものが香港流です。渋味と聞くと、眉をひそめる方もいますが、フレッシュなレモンと渋味のある紅茶は保証できるほど合います!機会がありましたら、甘さも酸っぱさも自分で調整するセルフカスタマイズの檸檬茶も是非飲んでみてくださいね。また、胃に優しいと思われる檸檬水(レェン・モン・スイ)もあります、名前の通り紅茶の代わりに水を使うものです。
熱檸檬茶 凍檸檬茶 手前が熱檸檬水、奥が凍檸檬茶
今までの紹介で、最初の冰類を除いて、全部カフェインが入っているものです。カフェインを避けたい方もご心配いりません!ここからはノンカフェインの飲み物を紹介します。
まずは、人気の高い阿華田(オー・ワー・ティン)と好立克(ホウ・ラッ・ハッ)です。阿華田はココア風味の麦芽飲料、ホットもアイスもあります。スイスの会社が生産していましたが、今はイギリスの会社の所有になっています。好立克はイギリス発祥、呵瀝(ホーレッ)ともいう麦芽飲料、ホットもアイスもあります。阿華田と好立克のインスタント製品はスーパーなどにも売っていますが、冰室と茶餐廳のものは淡奶が入っているため、より濃い味わいになります。また、阿華田と好立克のミックスで、「お子さん鴛鴦」ともいいます。お気づきだと思いますが、阿華田と好立克はともに麦芽飲料です。麦芽飲料は栄養補助、精力つけなどの効果があるとされています。手頃な価格で甘いものが飲めるだけでも十分な癒しだと個人的には思います。
次は日本人にとって、少し珍しいドリンクです。一つ目は利賓納(レイ・バン・ナッン)です。イギリスの会社が開発したカシス果汁が原材料の飲料で、檸檬を入れることも可能です。第二次世界大戦の時、ビタミンCを補充する栄養補助飲料とされています。二つ目は略称「菜蜜」の西洋菜蜜(サイ・イョン・チョイ・マッ)です。西洋菜はクレソン(正式和名はオランダガラシ)のことです。大量の西洋菜を水で煮込んで、はちみつを加えて、もととなる西洋菜蜜が出来上がります。西洋菜蜜をもとに、お湯で割れば熱菜蜜、アイスと水で割れば凍菜蜜になります。最初は高価なはちみつの代替品として作られたと思いますが、近年では西洋菜の抗がん作用や血圧を下げる効果が注目されているようです。三つ目は略称「檸蜜」の檸檬蜜(レェン・モン・マッ)です。文字通りですと、檸檬はちみつですが、はちみつに代わって西洋菜蜜を使うお店もあります。はちみつあるいは西洋菜蜜をお湯で割って、レモンを入れれば熱檸蜜、氷と水で割れば凍檸蜜になります。四つ目は咸檸七(ハム・レェン・ツァッ)です。梅干しのように塩辛く漬けたキンカンを七喜(ツァッ・ヘイ)に入れる飲み物です。七喜はペプシコーラ社の炭酸飲料です。コカ・コーラとペプシコーラが対等ならば、スプライトと七喜も同じ感じです。喉にいいとされています。こちらもアイスのみです。五つ目は杏仁霜(ハン・イャン・シュョン)です。杏仁豆腐に味が似た杏仁飲料、牛乳の代替品とされています。六つ目は滾水蛋(グワ・スイ・ダン)です。生卵にアツアツのお湯を注いで、卵を崩すように混ぜる飲み物、昔は栄養を補うための飲み物とされたが、最近は頼む人が少なくなっています。好みで砂糖を入れる人もいます。七つ目は鮮奶(シン・ナイ)つまり牛乳です。ホットも頼めます。これらのドリンクの共通点は体にいいことです。華人が大半を占める香港では、養生が日課です(笑)外食をしていても、栄養バランスを考える人が多いです。
咸檸七 杏仁霜
しかし、養生が大事にされていながらも、たまには力抜きで炭酸飲料を飲みたいです。そのため、コカ・コーラ、スプライト、ファンタなどの汽水(ヘイ・スイ)つまり炭酸飲料もあります。コカ・コーラとスプライトには檸檬を追加することも可能です。
凍飲加兩蚊(ドン・ヤム・ガー・リョウ・マン)の秘密
凍飲加兩蚊(ドン・ヤム・ガー・リョウ・マン)とは、凍飲つまりアイスドリンクが+HKD$2のことを指します。利賓納、菜蜜、檸蜜、咸檸七、鮮奶、汽水などは+HKD$2以上の場合もあります。メニューをご覧になった方、または香港の冰室と茶餐廳に行ったことある方はこのような疑問を持つかもしれません:同じドリンクなのに、ほとんどのアイスドリンクが高いのはなぜですか?
元々、華人の習慣として、冷たい飲み物は体を冷やしてしまうため、あまり飲まれていませんが、香港に住んでいるイギリス人を対象に売っていました。19世紀40年代、香港がイギリスの領地になり、香港の暑さに慣れないイギリス人にとって、氷はとても大事なものでした。イギリスにもアイスハウスを利用する習慣があるようですが、香港ではそれができないため、北米から大型貨物船で氷を輸入する必要がありました。しかし、北米からは一社だけ輸入している市場独占状態で、様々な理由があり、輸入が50年に修了しました。51年から60年は清の中国の北から氷を輸入するようになりましたが、61年以降は北米からの輸入が再開されました。輸入された氷は雪廠街(シュッ・チョーン・ガイ、Ice House Street)の冷蔵倉庫に保存されます。製氷機はようやく1874年の香港に作られ、次第に氷は輸入されなくなりました。お分かりだと思いますが、氷は高級品でした。ちなみに、氷の倉庫があった雪廠街は香港政官界の心臓部セントラルにあり、今は冷蔵倉庫がなくなりましたが、ストリートの名前はそのままです。
20世紀半ばに冰室、後期に茶餐廳が香港ではやり、アイスドリンクの受容性は華人の間に広がりました。今は各冰室と茶餐廳に製氷機がありますが、当時はわざわざ人を雇い、氷を雪廠街から運んでくる必要がありました。また、今の製氷機は性能が高く、自動的に細かい氷が作れますが、当時は重たい、大きい氷しか作られていませんでした。ドリンクに入れる細かい氷を作るには、専門的に氷を砕く係の人を雇う必要がありました。アイスドリンクにかかった人件費は一部消費者に移し、それがアイスドリンクが+HKD$2の秘密でした。今はそのような人件費がかからないところが多いですが、凍飲加兩蚊という名残りは冰室と茶餐廳だけでなく、香港の飲食店の特徴の一つになっています。
冒頭で述べたように、フードのご紹介はまた勝手ながら次回にさせていただきます。興味ある方は是非引き続きご注目してください!