お待たせいたしました。先週に引き続き、予告通り茶餐廳フードの紹介です。何度も言いますが、冰室と茶餐廳の最大の違いはそれぞれが所持するライセンスです。昔、冰室は「持牌小食食肆(LICENSED Light Refreshment Restaurant)」で、茶餐廳は「持牌普通食肆(LICENSED General Restaurant)」です。正しく言いますと、1960年からは「茶餐廳牌照(チャー・チャーン・テーン・パイ・ジウ、茶餐廳ライセンス)」というのがありました。冰室のライセンスによる制限が茶餐廳にはない分、よりバリエーション豊かなフードメニューがあります。軽食を中心的に提供する冰室と違い、茶餐廳は早朝から夜中まで営業し(今は二十四時間営業の茶餐廳も多い)、軽食からガッツリご飯ものを提供します。今回は時間帯順でご紹介いたします。
早餐(ゾウ・チャーン)=モーニングセット
開店(早朝5、6時あたりが多い)から午前11時までがモーニングの時間帯です。基本の三種類は①早餐と②西式早餐(サイ・セッ・ゾウ・チャーン)と③飽餐(バウ・チャーン)、店によっては④營養早餐(イェン・ヨン・ゾウ・チャーン)もあります。基本的にメニューは変わりません。
①早餐はパン+サイド+スープ入り麺類+ドリンクの組み合わせです。パンは基本的に牛油餐飽(ンアウ・ヤウ・チャーン・バウ)で、牛油多士(ンアウ・ヤウ・ドー・シ、バタートースト)にすることもできます。サイドは炒蛋(ツァウ・ダン、スクランブルエッグ)か太陽蛋(タイ・ヨン・ダン、目玉焼き)+火腿(フォー・トイ、ハム)か腸仔(チョーン・ツァイ、ソーセージ)か午餐肉(ンー・ツァン・ヨッ、ランチョンミート)か煙肉(イィン・ヨッ、ベーコン)の組み合わせが多いです。西煎雙蛋(サイ・ジン・ショーン・ダン、ダブル目玉焼き)も可能です。スープ入り麺類は火腿通粉(フォー・トイ・トーン・ファン、ハム入りスープマカロニ)、沙嗲牛肉麵(サー・デー・ンアウ・ヨッ・ミン、牛肉のサテソース炒めが乗ったインスタント麺)、雪菜肉絲米(シュッ・チョイ・ヨッ・シー・マイ、高菜漬けに似た漬物と豚肉の炒め物が乗ったスープビーフ)や五香肉丁麵(ンー・ヒョーン・ヨッ・ディン・ミン、スパイスポークキューブ入りインスタント麵)などがあります。ドリンクはドリンク編で紹介した飲み物です。最近ではトマトスープの麺類メニューも増えてきました。
②西式早餐の「西式」はウェスタンスタイルの意味で、多士+サイド1つ+ステーキ+ドリンクの組み合わせです。ステーキは豬扒(ジュ―・パー、ポークステーキ)、牛扒(ンアウ・パー、ビーフステーキ)、雞扒(ガイ・パー、チキンステーキ)、吉列豬扒(ガッ・リッ・ジュ―・パー、ポークカツレツ)と吉列魚柳(ガッ・リッ・イュ―・ラウ、フィッシュのカツレツ)から1つ選べます。お店によっては茄汁豆(ケー・ザップ・ダウ、ベイクドビーンズ)を添えることもあります。名前にはウェスタンスタイルとありますが、欧米でこのような朝食メニューが定番なのかはわかりません。おそらく、ステーキ=ウェスタンスタイルというイメージが由来でしょう。
③飽餐は前回紹介したパンかサンドイッチ+ドリンクのセットです。
④營養早餐は栄養価が高い朝食という意味で、牛奶麥皮(ンアウ・ナイ・マッ・ペイ、牛乳入りオートミール粥)+瓶入り鮮奶(シン・ナイ、牛乳)のセットです。香港では昔からオートミールは健康食品というイメージがあります。それにプラス牛乳だと、他のメニューより健康的な感じがします。
午餐(ンー・チャーン)=ランチセットと快餐(ファイ・チャーン)=クイックセット
茶餐廳のランチタイムは午前11時(モーニング終わってすぐ)から14時か14時半までが多いです。この間に提供するのが、午餐と快餐のメニューです。午餐に比べて、快餐の方が選択肢がやや多くなります。快餐の「快」は速いという意味で、とにかくスピーディーに出てくるのです。やはりここも香港人のスピーディーな生活スタイルが見えます。
午餐は選択肢が少なく、ほぼ早餐と似て、牛油餐飽+火腿奄列(フォー・トイ・アム・リッ、ハム入りオムレツ)+湯意(トン・イー、スープスパゲティ)+ドリンクという組み合わせです。これこそが定番かもしれません。
一方で、快餐のバリエーションが多いです。店によっては固定した週替わりのメニューがあります。碟頭飯(ディプ・タウ・ファン、ワンプレート)+ドリンクが基本です。最も有名なメニューは「男人的浪漫(ナム・イャン・ディク・ロン・マン、男のロマン)」というあだ名を持つ豆腐火腩飯(ダウ・フー・フォー・ナム・ファン、豆腐と皮付き豚バラの焼き物ごはん)と「show me your love」の英語発音と似た粟米肉粒飯(ソッ・マイ・ヨッ・ラップ・ファン、)です。他には豬扒、牛扒、雞扒などのステーキのどれ1つと、太陽蛋、火腿、腸仔、午餐肉のどれ1つに、黑椒汁(ハッ・ジウ・ザップ、黒コショウソース)、洋蔥汁(イョン・チョーン・ザップ、オニオンソース)、豉油汁(シー・ヤウ。ザップ、しょうゆソース)茄汁(ケー・ザップ、トマトソース)、白汁(バッ・ザップ、クリームソース)、粟米汁(ソッ・マイ・ザップ、コーンクリームソース)のどれ1つのソースをかけたワンプレートもあります。これに跟飯(ガン・ファン、ご飯)または跟意粉(ガン・イー・フェン、スパゲティ)を選べます。さらに加底(ガー・ダイ、ご飯かスパゲティを大盛りにする)や炒底(チャウ・ダイ、白飯をチャーハンにする)も頼めます。あとは炒め物のメニューもあります。ちなみに、晩餐(マン・チャーン)も基本的に同じメニューで、時間帯と多少値段の違いがあります。
下午茶餐(ハー・ンー・チャ・チャーン)=ティータイムセット
下午茶餐は午餐と晩餐の間に提供され、14時か14時半から17時か18時あたりが多いです。下午茶はイギリスのハイティーが起源とされています。ハイティーは昔のイギリスで、労働者階級が午後の仕事が終わった時に取る食事を指します。高いテーブルと背が高いイスを使うためのハイ(high)です。それに対し、貴族がランチとディナーの合間に食べる軽食をローティーまたはアフタヌーンティーと呼びます。低いテーブルとゆったり座れるソファーなどを使うためのロー(low)です。香港の下午茶はその両方を融合した形で、労働者階級がランチとディナーの合間にエネルギーを補充する食事です。時間的には多くが三點三(サム・ディム・サム、15時15分)で、午後の仕事の真ん中あたりです。今では職種問わず、三點三になったら軽食や休憩を取ることが習慣になっています。労働者階級のための食事だったので、高カロリーの揚げ物がほとんどで、食事+ドリンクの組み合わせが基本です。
前回紹介したパンやサンドイッチのほか、飛碟(フェイ・ディプ、ホットサンド)、西多士(サイ・ドー・シ、フレンチトースト)、炸雞髀(ザー・ガイ・ベイ、骨付き鶏もも肉の揚げ物)、炸雞翼(ザー・ガイ・イェック、手羽または手羽中の揚げ物)、薯條(シュー・ティウ、フライドポテト)、スープ入り麺類もあります。特に紹介したいのはカロリー爆弾といわれる西多士(西多ともいいます)です。八枚切りの耳なし食パン二枚の間にピーナッツバターを塗り、卵液をつけて揚げます。真ん中にバターを乗せた形で出てきます。おまけにシロップかハチミツもついてきて、好みにかけて食べる のです。美味しさと罪悪感たっぷりの一品です(笑)
常餐(ショーン・チャーン)=常にあるメニュー
常餐は基本的に時間帯問わずいつでも頼めるメニューですが、店によってはランチタイムとティータイムにだけ提供することもあります。内容は早餐や午餐に似て、牛油餐飽+火腿奄列またはサイド+スープ入り麺類+ドリンクという組み合わせです。これも基本的にメニューは変わりません。麺類のトッピングの頼み方は前回のサンドイッチと同じく、〇〇麺の三文字でいけちゃいます!
一般的に、メニューにあるものであれば、組み合わせの変更が可能です。場合によっては追加料金になります。例えば、スープ入り麺類の麺といえば公仔麺ですが、無料でビーフンに、追加料金で出前一丁麺に変更できます。なぜ出前一丁なのかというと、普通の公仔麺よりおいしいとされているからです。何度も繰り返しますが、自由度が高いのが茶餐廳の特徴です。
お気づきだと思いますが、茶餐廳のメニューは時間帯によって呼び方が違いますが、使われている食材が極めて似ているのです。香港アニメ「春田花花幼稚園(チョン・ティン・ファー・ファー・ヤウ・ジー・イュン)」では、常餐=特餐=快餐=午餐=晩餐=常餐とからかったことさえありました(笑)そのようにしてコストも食品ロスも削減でき、だからこそ、茶餐廳は値段からして大衆食堂のような感じです。多少ジャンクフード感があるものの、同じ食材を使っていても、飽きさせない創意工夫こそが香港人精神かもしれません。また、毎日茶餐廳に通う常連客も居れば、ちょっとした憩いの場として茶餐廳を使う人もいます。香港ドラマや映画では、登場人物が茶餐廳で待ち合わせしたり、出会ったり、商談したりもします。香港人であれば、誰しも一度は茶餐廳に行ったことがあるはずです。それほど、茶餐廳は香港人ないし香港文化にとって代わりのない大事な存在です。
今では冰室と名乗る店もほとんど「持牌普通食肆(LICENSED General Restaurant)」のライセンスを持つため、提供できる食品の制限はもうありません。また、1960年から出されていた「茶餐廳牌照」もとっくに発行停止になりました。最後ですが、冰室と茶餐廳の紹介はここまでです。たった4回のブログでは紹介しきれない部分はありますが、みなさんに冰室と茶餐廳について知っていただきたく、少しでもためになれれば、またこれをきっかけに茶餐廳に興味を持っていただければうれしいです。
お金持ちでも、有名人でも、官僚でも、一般人でも、外国人でも、香港人でも、それぞれが求める一品や一杯のために茶餐廳に通うのです。茶餐廳ではすべての人が平等な立場になります。これがまさに香港茶餐廳の哲学だと思います。みなさんの中に「茶餐廳哲学」はありますか?今度、冰室と茶餐廳に行くとき、香港人と話すとき、ぜひあなたが茶餐廳に求める一品や持論を語ってくださいね。