日本の夏といえば、お盆休みがありますね。それがだいたい八月で、旧暦だと七月になります。似たような例で言うと、今でも八月に行う各地の七夕祭りです。これは太陽暦と太陰暦の影響で生じたずれです。香港では太陽暦を使いますが、行事によっては太陰暦に従っています。ちなみに、太陰暦は旧暦とも農暦とも読みます。旧暦に従う行事は旧正月、清明節、端午節、中秋節などなどがあり、今回ご紹介したいのは旧暦七月にある盂蘭節です。
農暦七月(ノン・レッ・ツァッ・ユッ) 鬼門開(グヮイ・ムン・ホーイ)
まず一つことわっておきたいのは、香港でいう「鬼(グヮイ)」は人に害を与えるかどうか関係なく、亡くなった人々のことを指します。日本の節分に豆まきの対象とされるような陽気なイメージではありません。
香港では、旧暦七月は鬼月(グヮイ・ユッ)とも呼ばれています。理由はこの月には、陽間(イョー・ガン、人間が住む世界)と陰間(ヤム・ガン、鬼が住む世界)につながる扉が開き、鬼たちが陽間と陰間に行き来できるからです。そのため、亡くなった先祖や供養されていない霊がこの間に陽間に戻る説があると言われています。
禁忌が多い
旧暦七月の間に、同じ空間(陽間)に人と鬼がいるので、鬼に憑かれないようにと禁忌が多いです。ここで一部を紹介いたします。
1「水」に気をつけること
ここで言う水は、プール、海、河川などで水遊びをするときのことです。非業の死の鬼は自分の身代わりを探すと言われるためです。特にナイトプールや夜のクルーズパーティは危ないとされています。
2道に落ちているお金を拾わないこと
旧暦七月に落した小銭も拾わない人が多いです。厄払い的な意味合いや鬼たちにあげるということで、拾ってしまうと、悪運がついてしまうかもしれません。鬼からは、自分のお金が奪われたと思われるかもしれません。
3夜に後ろから名前が呼ばれても振り向かないこと
これも身代わりを探す説に関連しています。そもそも旧暦七月にはあまり夜遅くまで外を出歩かない方がいいとも言われています。
4人の肩を叩かないこと
人の両肩と頭のてっぺんにそれぞれ火があり、その火が消えてしまうと、運気が下がり、鬼に憑かれやすいと言われています。運気が下がってしまうため、下手に人の肩を叩いてしまうと怒られます。特にギャンブルや麻雀などする人の肩には触れないようにしましょう。また、旧暦七月以外にもこれは通用するので、気をつけた方がいいですね。前の人を呼び止めたいときは肩に近い上腕の方にしましょう。
供養されていない霊への供養
旧暦七月といえば、もう一つ行事があります。それは「燒街衣(シウ・ガイ・イー)」です。日本のお盆は精霊馬、精霊牛でお先祖様を迎え送りますね。お盆に近い意味合いの盂蘭節(ユー・ラン・ツィッ)は香港ではお先祖様ではなく、供養されていない霊を供養することが中心的です。そのため、祭事は自宅ではなく、指定されているエリアで行われます。また、盂蘭節当日、旧暦七月十四日の夜や前後に行われることが多いです。
祭事とはいえ、祭りのようなことではありません。鬼たちに供え物をし、衣紙(イー・ツィー)と呼ばれる紙を燃やして、鬼たちに送ります。もともと香港の寺院などでは、お線香を焚いたり、衣紙や紙錢(ツィー・ツィン、陰間で使えるお金)を燃やしたりするのが祈願やお先祖様供養の一つとされています。それと同様に、対象が供養されていない鬼に変わっただけとのことです。
対象が変わったため、供え物も少し変わります。神様やお先祖様のときは、鶏、肉、魚、りんごなどを使いますが、鬼のときは、鴨、龍眼などを使います。なぜこのように区別されたのかははっきりとされていません。旧暦七月十四日の夜や前後に、供え物と衣紙を用意し、指定された場所に供え物を置き、衣紙を燃やします。それが盂蘭節の祭事です。これは大体の家庭では母親が担当することが多いそうです。
読者のみなさんは恐らくこの祭事を実際にやることはないと思いますが、もう一つ禁忌の話をします。祭事に興味深いからと言って、衣紙を燃やしているところをじっと見たり、供え物などを触ったり、写真を撮ったりしてはいけません。祭事の邪魔をすると、鬼に憑かれてしまう説もありますが、それ以前にまず祭事をしているおかあさんたちに嫌われます。なので、気をつけてくださいね。
これらの禁忌やこのような祭事は単なる迷信とも言われていますが、一部は科学的な角度から見ても一理あると思われます。八月(旧暦七月)は夏休みの時期で、海で遊ぶことが増え、その分遭難するリスクも増えるでしょう。むろん、あまり科学的根拠がないものもあるので、鬼など信じないゆえ気にしない人もたくさんいます。あくまで、香港の風習として理解していただければと思います。わけありの旧暦七月ですので、ぜひ色々とお気をつけてくださいね。