香港は新界、九龍半島と香港島を含め263の島でできており、島の間を往来するにはフェリーは重要な交通機関になります。今でも離島に行くのにフェリーを使わなければならないところが多いです。一方、今は橋や海底トンネルが整備されているが、昔は九龍と香港島に行き来するのに、フェリーに乗るのが唯一の手段でした。今回はヴィクトリアハーバーを渡る、歴史のあるスターフェリーについてご紹介したいと思います。
スターフェリーの歴史
スターフェリーが最初に客を乗せてヴィクトリアハーバーを渡ったのは1880年に遡ります。インドから来たパールシーの Dorabjee Naorojee Mithaiwala氏が「九龍渡海小輪公司(ガウ・ロン・ドウ・ホイ・シウ・ロン・ゴーン・シー)」を立ち上げ、「曉星(ヒウ・セィン)」という名の蒸気船でサービスを提供していました。1888年の新聞記事では、40分から1時間間隔で中環(ツォン・ワン/セントラル、Central)と尖沙咀(ツィム・サー・ツイ、Tsim Sha Tsui)を往復し、月曜日から金曜日は燃料補充のためサービス休止するとありました。この時の運賃は香港ドル$0.05です。1890年には、フェリーが4隻に増え、後には4隻がすべて二階建てになり、客は二階にも乗れるようになったのです。さらにその後、別の商人がすべてのフェリーを買収し、1898年5月に今の馴染みのある「天星小輪公司(ティン・セィン・シウ・ロン・ゴーン・シー)」を立ち上げたのです。
フェリーの特徴
スターフェリー社が所有するフェリーの名前はすべて「星」の字が入っています。英語ではStarが入っています。フェリーの名前が会社の命名にも影響を与えたのです。現在は軽油を燃料として使用するフェリーが9隻と、ディーゼル・エレクトリック方式のフェリーが1隻で運航しています。フェリーはすべて伝統的な両頭型で、フェリーの上半部分は白色、下半部分は緑色、煙突のところに星型の飾りが4枚あります。日本の新幹線の座席は運航方向に合わせてスタッフが回転させますが、フェリーの座席の背もたれについても似たような感じです。背もたれはレバーのようになっていて、運航方向に合わせて、乗客が手動で動かすことができます。座席はふかふかのソファー席ではないが、昔ながらの良さと昔の人々の知恵を感じます。
スターフェリーはルートや曜日によって運航時間が異なりますが、主に朝6時半から夜11時半までです。運賃も同じく、子どもか大人、下の階か上の階、ルートや曜日などによって異なり、片道で香港ドル$1.8から$4.2になります。片道の所要時間は10分前後で、今でもヴィクトリアハーバーを渡るには最も速いかつ安い交通手段です。
以前のブログで紹介していた夏目漱石が香港を訪れた際、スターフェリーに乗ったことがありました。また、長寿番組『笑点』が1997年4月に香港で収録・寄席を開催した際、当時のメンバーたちもスターフェリーに乗りました。意外なことに、スターフェリーは日本の方々にもご縁がありましたね。それもそのはず、なぜなら、スターフェリーに乗ること自体が2009年に月刊誌『ナショナルジオグラフィック』に「人生に必見する観光場所50選」に入選、さらに全米旅行記者協会に「全世界10大最も素敵なフェリー旅」のトップとして選ばれたのです。観光にもオススメです!
スターフェリーに乗ったら、観光客か地元民かを見分けることができます。多くの観光客は上の階、地元民は下の階に座るからです。上の階からはヴィクトリアハーバーの両岸の景色を360度綺麗に見渡せます。一方、下の階は軽油の匂いや海の磯の匂い、しょっぱい匂いが伴います。それでも、筆者を含め多くの香港人は下の階が好きです。テレビなどで香港が紹介される時や観光客が撮る香港はヴィクトリアピークからの鳥瞰がほとんどです。しかし、スターフェリーの下の階に座ってヴィクトリアハーバーを渡ると、同じ水平の目線でこの街を見ることができ、自分はここで生きている感じがします。この街の一員として、ここで生活していると、強くこの土地とのつながりを体感できます。
港町の人々に共通しているかわりませんか、何も考えずに海を見てぼぉーとすると、そのうち悩みとかの嫌な気持が吹っ飛び、気分が晴れます。特に、生活リズムが速い香港ですが、フェリーに乗っている10分ほどの間はゆったりと気分を落ちつかせることができます。その間にだけ、文字通り「波のまにまに」で一息ついて休めます。失恋したとき、家族と喧嘩したとき、仕事が上手くいかないときなどなど、苦しいときにフェリーに乗ってみると、いつもと違う視点で物事を見たり、考えが閃いたりして、解決策につながることもあるでしょう。
フェリーとはいえ、基本的に運航は穏やかでゆったりしているので、船に乗るのが苦手な筆者でも酔い止めを飲まずに乗れます。皆さんも機会があれば是非乗ってみてくださいね!