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Japan Hongkongers Association

香港映画『ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件』感想ブログ

By Japan Hongkongers Association on 2026-04-122026-04-12

佐藤開

導入

2025年1/24。日本で『トワイライト・ウォーリアーズ 決戦!九龍城塞』が上映開始された。同作は大ヒットし、一部では「香港映画人気の復活作」とも評された。しかし、『トワイライト・ウォーリアーズ』の日本公開の一週間前、香港で興行収入ランキング5週連続一位を記録した作品がひっそりと公開されていた。今回紹介する『ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件(原題:金手指)』は1982年に香港で実際に起きた「嘉寧(キャリアン)」事件を基にした映画である。

あらすじ

1976年、シンガポールで建設作業員を勤めていた程一言 (チン・ヤッティン) は香港に渡航する。程はたまたま転がり込んだ建設作業会社で出会った曾剣橋(ツァン・ギムキュウ)と手を組む。程はマレーの大富豪と身分を偽り、手掛けていたマンションを高値で売らせた。味を占めた程と曾はコングロマリット企業「嘉文(カーマン)世紀」を設立し、後述するような詐欺的手法で会社を急拡大させる。しかし、香港当局が見逃すはずもなく、廉政公署(れんせいこうしょ。汚職摘発を担当する専門部署)に勤める劉啓源(ラウ・カイユン)は嘉文が急拡大したからくりを解明しようとする。それは十数年にわたる戦いの始まりだったーー

二つのノスタルジア(?)

本作の魅力及び特徴は二つある。一つはトニー・レオン(梁朝偉)とアンディ・ラウ(劉徳華)の共演である。二人とも香港を代表する映画スターであり、二人が共演するのはかの香港映画の名作『インファラル・アフェア』シリーズ(2003)以来約20年ぶりである。同シリーズでトニー・レオンは潜入捜査官を、アンディ・ラウが香港マフィア側の内通者として演じたのとは対照的に、本作『ゴールドフィンガー』ではトニー・レオンが詐欺師の程を、アンディ・ラウが汚職摘発専門捜査官の劉を演じており、この「攻守交替」魅力の一つだろう。しかし、20年前の名作のキャストに頼るのは「ヒット作よ、もう一度」感がしなくもない。(余談だが、『インファラル・アフェア』は日本及び英語タイトルであり、広東語の原題は『無間道』である。したがって、香港人に『インファラル・アフェア』と言っても通じない可能性がある)

もう一つの魅力は返還前の香港の狂乱を追体験できる点である。詐欺のような手法で「なりあがった」程と彼が立ち上げた「嘉文集団」の幹部が豪遊をしたり、今から考えるとコンプライアンス度外視の方法で商談や買収を行う様子は、日本のバブル景気時の光景に重なるところもある。(劇中で流れる「君の瞳に恋してるーCan‘t take my eyes off」はバブル期によくディスコで流れていた曲の一つでもある) もっとも、程のような詐欺師が10年もしないうちになりあがったのも、「実力があれば誰でも成り上がれる地」、「ブラックマネーも引き寄せてしまう土地」、香港を体現している。ある意味、当時の香港政庁が掲げた「積極的非介入主義(Positive Non-Interventionism. 社会や経済が深刻な危機に陥らない限り、政府は民間に関与しないとの方針)」の産物とも言える。

「嘘」から始まった物語

「ほんの悪ふざけのつもりが俺の人生を変えることになるとは」
本作の主人公、程が成りあがったのはほんの小さな嘘だった。シンガポールから裸一貫の状態で来た程は、香港の建設会社に転がり込む。そこで出会った曾剣橋と手を組み、程はマレーシアの富豪に成りすまし、曾の勤める会社が建設を手掛けるアパートを予想より売りつけた。この成功体験が程を狂わせた。

程は「風説の流布」と呼ばれる手法を使った。風説の流布とは虚偽ないし、未確認情報を使い株価を操作する行為であり、日本や米国、香港など多くの国や地域で禁じられている。最初のマンション売却も充分風説の流布に該当するが、彼が経営する嘉文集団が巨大化するにつれ手口が巧妙になった。例えば、香港の中心地にある高層ビル「金山(ガムサン)大厦」を買収する際、嘉文は「6億香港ドルで買収する」と発表したのち、どこから「11億香港ドルで買収する者がいる」との噂を流す。結果、嘉文の株価は二倍に跳ね上がり、実質1億香港ドルで買収した。程は香港の上流階級を同じような手法で加担させたり、「フィリピン大統領の資産管理責任者」などと真偽不明の情報を流し、株価を釣り上げた。当然、詐欺に等しい手法が長続きするはずもなく、香港返還を巡る英中交渉やそれに伴う社会不安で株価は暴落、一時は「紙幣より価値がある」と言われた嘉文株は紙くず同然にまで暴落した。

もし、程が真っ当な商人(あきんど)だったら結末は違っていたのか?私の答えは否だ。「事業と屏風は広げすぎると倒れる」という言葉がある。屏風を広げすぎると倒れてしまうように、身の丈に合わない事業や投資の急拡大は会社経営に悪影響をもたらすという意味である。嘉文が風説の流布と他の詐欺的な手法で株価を釣り上げた時、程はカナダの都市開発事業への出資、英国の海運会社や日本の映画撮影会社の買収など様々な事業に触手を広げていた。はっきり言ってこれらの事業や会社同士、そして嘉文の事業に何の関係があるのかさっぱりわからなかった。劇中で直接の描写こそなかったものの、急拡大した事業は暴落時には「資産」になるどころか「負債」になったのは明らかだろう。もっとも、脈絡のない事業拡大は詐欺で成り上がった成功体験に起因しているのか、はたまた成功による気の緩みだったのかは意見が分かれるだろう。しかし、後者であれば、たとえ程が真っ当な方法で成功しても同じ結末になっていただろう。

本作の普遍性

本作で取り上げたテーマは決して香港特有ではない。経歴の詐称や風説の流布は香港だけでなく、日本や他の国でも絶えず起きている。また、程が嘉文破綻後に証拠隠滅や検察の買収を行い、罪を逃れようとするさまは、金や権力に屈しやすい司法の脆さを映し出している。本作を単なる「香港映画」で終わらせたら勿体ないだろう。

『ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件』は4/1からNetflix及びU-Nextなど各種配信サービスで見放題作品として配信中


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